平飼いの目指すところ

人類史とは言語である。そして言葉で言い表せる世界がすべてだと信じられている。しかし言語を使用する前から人間は居たのである。言語前、言語後という分け方をすれば言語前の歴史のほうがはるかに長い。前言語的な人間の生活を考えてみる。自給自足の過酷な生活の中で食料はまさに命そのものであった。また食料を得るために他人と助け合うことは必然であった。そのため言葉の未熟な中で社会性を保つための動作、振る舞いは非常に洗練されていたはずである。まさにその何万年という無言の行為の歴史が人類の知恵になり財産になったのである。

抽象化と秩序化は人間特有の脳の働きである。その働きによって言葉が生み出された。その働きはさらに加速し科学を発達させそして産業革命が起こる。人類はバブルと化しその真っ只中に私たちがいる。言葉は人間にだけ共通の他の生物や自然に対しての暴力でありそして必要以上の欲を追及する自分の不道徳を隠す自己欺瞞の道具に成り下がってしまった。

世の中が変わるというのは一人一人がよく考えることだと思う。一人一人がよく考えて全体が変わっていくのである。自分の考えを述べたい。「“自分で作ったものを自分で食べるということ。”それが人間の原点でありすべてがそこから始まっている。そしてそれをすることによりいつでもそこに帰れる。」原点に戻ることで現代人が忘れていた価値観、持つべき心、生きている実感を取り戻すことができる。高度に複雑分業化した現代社会では部分的役割に埋没して周りに無関心になりがちであるが原点に戻ると然るべき尺度を持ち全体を見渡すことができる。自然の理にかなった食料生産を自発的に行う人が増えることが必要だと思う。そしてそういう生産者同士が違う食材を融通し合い食を賄うのが理想的である。経済の枠を超えた食の聖域化である。その理想のための第一歩が私にとって“平飼い”である。

昭和50年以降海外を模した合理化養豚が普及。それは人間の管理を優先した母豚を柵に閉じ込める飼い方でした。豚を経済動物と考えた多くの経営者はこの飼養技術を導入、設備投資して一ヶ所に何千、何万と豚を集め工場のような養豚場をつくりました。その結果様々な問題が発生しました。その一つが病気です。肺炎、下痢などが日常的に発生し生まれてから出荷までの生存率が半分という病気が流行することもあります。これらの原因は母豚が柵に閉じ込められたことによるストレスから免疫が低下して子豚に影響を与えたものだと考えられます。平飼いは母豚を柵から開放し、母豚本来の自然的欲求を満たしてあげる前近代的な飼育方法です。母豚が自由に動けるようになると自然でゆったりとした性格と豊かな表現力を取り戻します。これを見ると豚という自然が本来あるべき姿に戻ったということが分かります。のびのびしたお母さんから生まれた子豚はとても元気です。